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NUMERO DEUX / Shinichi Ishikawa

描く・カク散歩道

作家の動き
加藤ちろる「散策」
私は約束の時間より十分前にカフェへ着いた。だが、その人はすでにそこにいた。視線を落とすと、テーブルの上のノートには無数のラフが描かれている。けれど、オーダーはまだのようだった。
「仕事のラフですか?」と尋ねると、
「いや。ただの落書きです。」
そう言って、その人はノートをそっと閉じた。
ある作家との思い出だ。理由もなく描く、その行為は落書きであり、スケッチであり、あるいは制作そのものかもしれない。呼び方は単なる便宜上のものなのかもしれないが、描くこと自体に意味がある。何を描くかではなく、「描く」という行為ができること、そしてそれを愛すること。それこそがアーティストにとって最も重要な素養ではないか。描かない理由を考えない——その才能こそが。
チカホの壁面に直接貼られた加藤ちろるの作品。その存在は、遠目には巨大なオブジェクトのように映り、しかし、限界まで近づくと、そこに潜む無数の物語が見えてくる。閉じた空間に沈み込むのではなく、紙のサイズを超え、無数のベクトルが四方八方へと広がっている。これは額装など到底できない作品だ。
有機的な形態の集合体。フレッシュでありながら、スリリングな緊張感を孕んだ作品。そして、公共空間であるチカホに貼られたことで、この作家の次なる段階を示す「手がかり」として、私たちはそれを見ることになるのだろう。
Think School 2024 卒業制作展
「ルック・シンク・ラック」
チ・カ・ホ(札幌市地下歩行空間)|2024年3月26日(水)まで開催中
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