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NUMERO DEUX / Shinichi Ishikawa

舘田美玖の平面の未来形 


舘田美玖 第12回500m美術館賞 入選展

平面を飛び越える平面 炭酸水は当たり前だが炭酸があるからこそ美味い。無数の細かな泡が身体を駆け巡り、一瞬のうちに弾けて消える。急ぎ足で飲み干したせいか、数滴が床へと零れ落ちた。水滴は立体でありながら、床の上で広がり、薄れ、ついには消えてゆく。それはまるで、三次元から二次元、そして無へと収束する儚きプロセスのようにも思える。

さて、本賞において最も印象に残った作品について記したい。私はインスタレーションやメディア・アートに強く惹かれる。もはや、それらを愛してしまう性分と言ってもいいだろう。なぜなら、それらは空間や交流の中に溶け込み、攪拌され、新たな形へと変容してゆくからだ。インスタレーションは空間を創り出し、メディア・アートは未来とコミュニケーションの可能性を提示してくれる。

一方で、伝統的な絵画スタイル、いわゆる「平面作品」には、良くも悪くもクラシックな趣がある。過去に評価の定まった名作の多くが平面作品であり、それらが展示される美術館には長蛇の列ができる。 名作展示、チケット売り場の前に、平均年齢の高い行列が静かに並ぶ光景は、ある種の風物詩とも言えるだろう。

しかし、現代美術を主題とした芸術祭では、平面作品はどこか現代性を欠くように感じるのは自分の自身の退屈なのか、勘違いなのかわからない。 クラシックとは、すなわち古き良きものなのだろう。作家によってはその伝統を大切にする者もいれば、それを超えたアプローチを試みる者もいる。どちらもまた、正解なのだ。

舘田美玖の平面作品は、まさに後者にあたる。クラシックな枠に収まりきらない、軽やかな逸脱を感じるのだ。一見すると無邪気な平面作品のようであり、シュポール/シュルファスの文脈でも語れるかもしれない。 しかし、それだけでは表しきれない魅力がある。

彼女の作品は決して静的ではなく、むしろ流動的であり、見る者に楽しさを与える。その感覚は、彼女がアニメーションも手がけていることとも実に納得しやすい。 1995年生まれの彼女は、 まだまだこれからが楽しみな作家である。

「第12回500m美術館賞 入選展」

2025年1月25日(土) 〜 2025年3月26日(水)                                                                                  500m美術館 (札幌市営地下鉄大通駅とバスセンター前駅を結ぶコンコース)

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